COMPACT GRAFREX Stationary Grafrex  5×7 レストア記  2002/6/20


名前はコンパクト・グラフレックス、レンズをはずしても4Kgもあり、H=235 W=215 D=170 の堂々とした写真機が
婿入りしました。いや、婿入りではなく、610老人ホームへの入所者です。
製造番号は 55437 1915-1918年12月5日までに47000〜87976までの製品番号で作られました、
5×7は1916年からとなっていますので初年度の製作品です。
この時期の製造メーカー名は Former & Schwing Division/Departmentです。
社名にGRAFLEXの文字が使われていない時期がありました。

この横位置専用のCompact Graflexは私の手持ち資料の中にはあまり記載が無く、有名な
Mckeown's PRICE GUIDE CAMRRASに、僅かに3・1/4×5・1/2”と5×7があると記載しています。
したがってこの機体は5×7吋サイズです。
この時代のレンズ仕様と蛇腹の長さから見ておよそ280mmのレンズを装着していたと思います。
(レンズは紛失して、フランジのみ付いておりました、この直径が210mmのf:4,5レンズがすっぽり通り抜けます)

さて、手元に届いた本体はレンズなし、バックは5×7パックホルダーの残骸だけ、蛇腹はボロボロで、
かろうじて形を保っている有様でした。内部ミラーも裏面鏡ながら腐食が進んでいました。
折りたたみ収納されている金具類は真鍮にグレーの塗装で綺麗です。
おそらくカメラとしては残念な事にあまり使用された事のない状態であったと思います。
操作側の金属部品は長年の汚れが溜まってものすごく汚い色になっていました。
外皮も操作面が一番疲労していて、さわるとボロボロと剥げる状態です。
例のトロピカルにすればという意見と、そのままにという意見がありましたが、この機体は非常に珍しい機種である事を
考えるとオリジナルの修復にすべきと判断しました。

製作する所は蛇腹、ミラー交換、シートフイルムホルダーです。

レンズにはカールツアイスの誇るプロターを2個組合わせるドッペル(=独、ダブル=英)プロターを使う事にしました。
このレンズは D Set-BAUSH LOMB-ZEISS CONVERTIBLE PROTAR VU、
プロターだけはフランス以外の外国に作らせなかったという1文を何かの本で見たことがありますが、
その筆者の思い違いでしょう、現にこうしてありますし、ありますよと教えてくださった方もあります。
まあ非常に数が限られていたのでしょう。おそらく1920年前後に作られたと推定しますが
中の説明書にシャッター無しで$197.50と記載していますから相当高価なレンズだったでしょう。
ダブルにしなければ18・7/8吋までの長焦点も得られますが1枚使いではf値が12.5と大変暗いので
組合わせ使いで10in=25Cmと決定しました。

フイルムサイズは国際規格45,57と同じデザインの4・3/4×6・1/2という57より僅かに小さい
ホルダーが出てきました。たぶんキャビネ版です、これを使う事にしました。

レストア完成写真です







蛇腹の製作

蛇腹がまだ存在しますのでフランジ面をなるべく残すように、後で寸法が計測できるように丁寧に剥がします。
いずれにしても展開しますので縦のどこかのラインが切れていてもかまいません。

この写真機の場合前面と後面がたたんだときは平行で、引き出した時は後方の上面が前に倒れる複雑な形で
それなりに蛇腹の形状は扇状の部分とかありますが皆さんは無視して読んで下さい。
平行蛇腹?テーパーのないものは、当然一つ一つの折り目のサイズは一定です。
前すぼみになった物は次の段との間に寸法の違いがあり例えば12mmと10mmといった繰り返しですね。
ばらした蛇腹を良く観察すればわかります。

蛇腹の材料に決まりはありません、表には見栄えと寿命の長いビニールレザーなどでよいと思います。
僕は今回、カッティングシート(糊の付いたもの)を表に使いました。遮光性は濃いグレーの為あまりよくありません。
本来光線を通さ無い物にしたいですね、今回は裏打ちの紙の遮光性に頼る事になりました。
採寸をしたらケント紙に展開図を書きます、コーナー部分は採寸して適当に間隔を取ります。
どうせ隠れてしまう所なのでとても汚いですが出来れば正確に記入しましょう。


コーナー部分は折り目に沿って強く折り曲げてしごいておきます。両端を少し残して折り目の所をはさみで少し切り抜きます。
つまりすだれのような物が出来上がります、工作はご覧のとおりいい加減ですが綺麗な蛇腹は綺麗な下工作から出来ます。
切り取って裏紙に糊で貼った所です、糊はなるべく安いのがいいです、修正時間が稼げます。
糊が乾いたら、今回は強力な糊の付いたカッティングシートを使いましたので少し工夫しました。
シートの糊面に洗剤を1滴たらした水をスプレーして糊を完全にころしてしまいます。
そうする事で完全に裏面、中面と密着させます。
少し時間が経つと水分が抜けて接着力が効果を表してきますのでこの時は観察を怠る事は出来ません。

厳密に言うと切り口の合わせ目は下面であり、前から後ろまで斜めにずらして行けば折りたたんだ時に
重なりで厚みが出るのを防ぎます。
裏面の紙はごく薄手の光線を充分防ぐことのできるものを紙問屋で見つけました。
表の革材は本物はヤンピーという子羊の革で0.15mmぐらいの物を使ったりしています。
今回の材料は0.18mmでした、ハンドバックの裏に使うのり付きレザーは 糊、布、ビニールで0.35mm
体裁のいい紙材でもいいかと思いますが、常に厚さを検討項目の第1に考えてください。



左から袋状に糊付け完了した物、コーナーの折り始め、折り終わり、最後に前後のフランジ材を接着。


液体ゴムが補修に使える

ここで蛇腹をフランジ面にボンドで貼り付けましたがやはり少し凸凹した所があったのでしょう、光線漏れがありました。
以前は墨汁にタルカムパウダーを混ぜてつぶしていましたが乾燥すると目減りして又少し光線を引くことが多く
2度手間、3度手間をくいました。
そこで今回はホームセンターのゴム材を売っているコーナーで液体ゴムを見つけていましたので
これを使って一気に光線漏れを解消する事が出来ました。
但し今回のように長い隙間を埋めるのではなく、薄い膜を形成する時には顔料が足りないと思います。
35mmカメラのフォーカル幕を想定して絹の布に刷り込みましたが5回ぐらいの積層でやっと何とか使えるかなー
といった程度です、そこでこの液体ゴムにタルカムと黒鉛?(コピー機のトナーが手元にありました)を
混合してみたら光沢も消えて程よい半つや消しとなり、これは蛇腹の補修などに使えると思います

配合比は、簡単な試験ですが重量比でタルカム1:トナー1:液体ゴム5 ぐらいでさほど粘性も上がらず
目潰しも充分と思う程度になりました、これでフォーカル幕試作もOKかなと思う程度です。
フォーカル幕は厚みの均一さなどを考えると自作よりも暗袋材が1番いいように思います。
ピンホールの補修になら充分使えると思います。
木製カメラの大きな幕がひび割れたりしている所にはこれを全面に刷り込むと老化したゴムが
少し柔軟性を持ってくるようです、交換まではしたくない時に使えます。
左は250Gr入りで1000円ぐらい右のチューブ入りは70Grで700円ぐらい
迷わず大きいほうにしましょう。本来の使い道がいろいろありますから。