ロフレックスA(カールツァイス)
ZEISS IKON MIROFLEX-A
2009 12/10〜12/31

製造年1927〜1936年

 神奈川県の友人に頂いたミロフレックスA、

12月1日、私の尊敬する写真の大先輩(大阪)が鬼籍に旅立ちました、
ミロフレックス手札判はその先輩から何度も譲っていただいたり修理して差し上げたり・・・
想い出深い寫眞機であります。
このミロフレックスは神奈川を出発して、奇しくもその日は大阪辺りを移動していました。
先輩の冥福を祈りつつ。

カールツァイス財団がツァイス・イコンをカメラ部門として編成し
最初に発売した折り畳み式1眼レフカメラがミロフレックスです。
財団傘下になる前にイーハーゲーが既に開発完成していたものです。
B型もありましてそちらは9×12cm(シノゴに近い手札判)
今回頂いたA型は(6×9cm)少し小振りな珍しいサイズの大名刺判です(初めて手にしました)。
折畳みできる1眼レフでもあり透視ファインダーを使うクラップカメラとしても使えます。


1 レンズはテッサー12cm f:4.5

  
2                                     3

ピントフードが破損、ピントグラスも破損 折り畳むと非常にコンパクトになります。

非常に貴重で珍しいカメラなので何とか回復させてやりたいです。
損傷が大きいので順次修復していくことにします。

1 レンズ周り
実はこの絞りの破損状態を見たときには思わず背筋が凍りつくような気がしました。


 
L-1                                           L-2
さてレンズは何とかなるとして、まるでオイルサーディンのように油漬けになった16枚絞り。
少し変わったやり方で○リングを引き抜くと絞りがバラせます。
これほどの傷んだものを修復したことがないので怖いですがこれを乗り越えたらあとは何とかなるでしょう。

 
L-3                                              L-4
L-4写真の上側のほうは引っ張ったらポッキリ折れてしまいました。
ベンジンで脱脂してみたところです。


 
L-6                      L-6
折れた羽根は銀ロウ付けで溶接。板厚の100ミクロンにまで仕上げないとスムーズに収まりません。
反対側のバーリング軸も折れて無くなっていますので竹ヒゴを0.9mmに削って瞬間接着剤で固定し
はみ出した分とかうしろ側は切り取ってヤスリで整形して元のサイズに補強仕上げます。


  L-7 
マイクロペンチで平面と左の直角爪、バーリングの垂直性と直径を整えます。


  
  L-8                           L-9                           L-10

溶接した1枚の形が後遺症を残しています。
少し切り取ればいいのですがまたバラして組み込むのはもう怖い。
絞り羽根の修復だけで数日格闘したのでくたびれました。
とりあえずスムーズに動き始めたという事で良しとします。


2 フードとミラー、ピントグラス

 
F-1                                F-2
ピントグラスがなくなっているので曇ったミラーが素通しで見えます、フードの残滓も基部だけ。

先に表面鏡とピントグラスを新しく切り出して作ります。
フレネルを使いたかったのですが67用しか手持ちにないので次のチャンスに譲ります。


 
F-3                                                  F-4
折り畳みフードを立ち上げるピアノ線のフレームが1箇所折れていたので内径1mmの真鍮パイプで骨接ぎ。
手持ちのピアノ線ではここまで強靭な力がありません。

 
F-5                                            F-6
工作用厚紙の上で、古い写真などから想像してフードの型紙を切り出します。
全部切りぬいたら余白の中にきれいに納めて糊を塗ってレザーをあてがいます。
空間の部分になるランナーは糊が付いていないのであとで外します。
左のマンガでは形が悪かったので失敗、それを参考に2度目の作図が右側。これでOKでした。
壊れたもとのクズでもあれば作業は早かったのですが原形を想像しながらの作業なので単純なようで意外と手間を喰います。


 
F-7                                         F-8
出来あがったフードは畳んで中に収まるかどうかが問題です・・・OKでした。
次にボタンを押すとビヨーーンと元気よくF-6の状態まで立ち上りますので、後方を手前に開いて完了。


 
F-9
参考にした雑誌の小さな写真と比較しても背丈もあまり変わりません。
ほとんど原形に近い姿を取り戻したと思います。
まるで重要文化財の修復をお手伝いしたようないい気分です。


3 フォーカルプレンシャッター修理

シャッター幕は80年の歳月で先幕も後幕も満天の星空のように光線漏れをしています。
幕は布にゴム引きの遮光材(暗袋などの素材)があるので張替えます。
重要なのはリボンで、伸びがなく適当な摩擦力を持ったリボンを見つけるのは至難の業です。
古典カメラの修復用に長いこと探していますが未だに適切な素材に出会ったことがありません。
昔の人は布の摩擦抵抗などを積極的に利用していたのに驚きます。

幸い、今回の患者さんのリボンは健在でしたので幕だけの張替えをします。

 
S-1                                                  S-2
両脇の白いリボンはそのまま使えます。
判りにくいと思いますがS-2は後幕の周辺だけを残して古い幕の中央をくり抜いているところです。
新しく更新する幕は上の巻揚げ軸には直接接続せず、軸の直下の平面部から下側のエッジ金具までの張替えです。
オリジナルの幕と現在の幕厚が違うのでスリットの巻き取り量が変わります。
この巻揚げ軸辺りのクリアランスは非常に狭いので極力薄く仕上げます。
接着が完了したら上と下を繋いでいた左右の古い幕(リボン状の黒い所)は切り取って廃棄します。
こうすることで幕の上下寸法、巻き取りテンションはまったく変わらずに新幕に入れ替わります。




S-3
接着剤が余計なところに付かない様にマスキングを丁寧に行います。
左下側に載せているのがこれから貼る新しい幕で接着面はNTカッターの背中で荒らしています。

同様に先幕の処置もして完了します。
この手法ですと巻取り軸のテンションなども変わらないままで幕の更新ができる利点があります。
今は性能のよい接着剤が出回っていますのでこういう事が出来ます。
折角1/2000の高速シャッターまで使えるので本来の機能を大切にしたいです。


S-4
ついでにシャッターメカニズムをご覧ください。
カムを多用し遊星歯車なども使われています。
このメカニズムでT/B/3・5・7・20・35・50・100・175・250・350・500・1000・2000・を作りだしています。
しかもまるで給油の必要もないように安定していますが折角ですのでベンジンにミシンオイルを1滴溶解した液で洗浄給油します。。
メカニズムはいつ見てもドイツ人のカム機構好きが感じられますがまさに重厚長大であります。
日本人はどうもカムは苦手ですが一旦チューニングされたカムはシンプルでまず壊れない手本のようなものです。



4 フィルムホルダー

この写真機は大名刺サイズのカットシート、あるいはガラス乾版を使うようになっています。
いまさらそのようなフィルムやスペアーのホルダーも入手し難いのでロールフィルムを使うようにしましょう。
ブローニーの69サイズですとほとんど同じ画角です。

ただし、バックのピントグラスや乾版のオリジナリティはなくなってしまう事になります。
既にフードがオリジナルではないのと、使ってこそのカメラじゃないかという事でロールフィルム専用に作り変えます。

バックのスライド部分にロールホルダーを付けてオリジナルの姿を残すことも考えられますが
フランジバックが変わるのでピントグラス部までも変更する羽目になり、却っておかしな事になります。


 
H-1                                             H-2
H-1の右は不要になったピントグラス、左はミロフレックスうしろ側のフィルムガイドの金具等のカシメをはずしたところ。
H-2はトプコンの旧型69フィルムホルダーの引き蓋側カバーを捨ててミロのバックと位置合わせとフランジバック調整中。
ミロの開口部とトプコンの前面は0.5mmほどの引っ掛かりでバッチリ噛合いますのでサイドの光線漏れも阻止できます。
切削した深さはホルダー内部左右のフィルム面案内ガイドローラーの底が抜けるところまでになりました。


 
H-3                                               H-4
接合面積が広いので今回接着剤だけで貼り合わせ、黒い接着剤で光線漏れも完全に防止。
H-4はホルダー側から見た様子。トプコンのこのホルダー巻き上げレバーを上側にも下側にも填められます。

組み替える前にオリジナルのピントグラスとボデー裏側の寸法計測を正確に行い
トプコンのホルダーの接合面を正確に削ったので寸法誤差はゼロで済みました。
これが狂うとミラー折り返しのファインダーグラスとの不整合も出てくるので大変な手間を喰います。

80年前の高級素材、アルミニュームをうまく使った例だと思います。
ギュウギュウに狭い所を押しあいへし合いしながらパチンと填め合わせると
ピタッと納まって光線漏れなどをまったく起こさない不思議で巧妙な構造です。


5 完成


 
K-1                               K-2
K-1は携帯時の折り畳みの様。
K-2はレンズ下の箪笥の取っ手を引いてミラーが持上がりクラップカメラの姿勢。


 
K-3                                         K-4
K-3は1眼レフの姿勢、ミラーボックスサイドの独特な蛇腹構造が見えます。
畳むときはフードを収納し、シャッターダイヤル上側のストラップリング脇のボタンを押すと
ピントグラスボックスがガクッと中に収納されこの時、内部がガラン胴に覗けます。

K-4はフィルムホルダー側から見た状態、
透視ファインダーのアイピースは左に倒し、前フレームは前蓋に収納されています。
外装も靴墨やラッカー塗装後にスチールウール磨き、
古式ワックスなどの秘法で重厚な輝きだと自負しています。
なおレンズボードは左右に各々8mm程シフトできます。
ペンタックス67、標準レンズ付きの2500gr弱に比較してmiroflexは69で2050grで軽いし折畳めますね。

最後にこの寫眞機をご提供くださったK氏と、
突然ホルダーが欲しくなり東京の師走の街に使い走りをお願いしてしまった
E氏に深くお詫びと謝意を申し上げます。


試写
レンズはTESSER AU f:4.5/120mm(製造No958042)と書かれています。
f:4.5ですから「C Tesserの2類」と称されるレンズだと思うのですが。
Bテッサーはf:6.3、 Aテッサーは実はプロターと教えてもらいましたががまだ何か分類があるのかな?


2000年に期限の切れたProvia100をE-6自家現像(ウナギのたれ式補充液11回目)
退色補正をしています。
シャッター速度最低の1/3秒、絞り f11 右隅の白いモヤっとしたのは通過した車。



これも2006年期限切れPRPVIA400Fで液補充を忘れた12回目の現像液。
退色補正あり、
左側は1/2000 f:5.6  右側は1/1000 f:8
左高速側1/2000のシャッターは1/1500位かもしれませんが幕速ムラもなく正常に動作しているとおもいます。
やはり100万番以降のテッサーとは一味違う古典テッサーCVレンズの温かくて太い描写特性があるような気がします。
ところでこの時代、フィルムの感度もしれていたのになぜ1/2000のシャッターが必要だったのか?

END

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