リンホフ220(LINHOF220)の整備


 知合いの方がリンホフ220を入手され、なかなかの写りとの事です。
このカメラも生産量が少ない様で非常に高価な一品の様です。
フイルムは120サイズ、所謂68サイズ10枚撮りの縦画面、露出計内蔵、レンジファインダー機で
レンズ交換は出来ないようです。
他にグリップが下ではなく横に付いたのもあります(220RS)
スポーツファインダー付き横画面の220PLもあったようです。
このボデーは全体ブラックペイントですがブラックペイントは1973年だけ生産されているようです。

 レンズはLINHOF-TECHNIKAR 1:3.5 f=95mm シャッターはSYNCHRO-COMPUR B・1・〜1/500
絞りは3.5〜32 ASA12〜1600までの設定のあるゴッセンの追針式メーターがブライトフレーム付きファインダー内
下部に見えます。シャッター・絞りどちらからでも自由に追いかける事が出来ます。

 この異形のカメラは何故開発されたのか?全く私の想像なのですが・・・
このカメラはプレスカメラとして記者が対話しながらスッと対談相手を撮るのには最高の道具であると思います。
決して道楽用ではなく僅かの遊び心もない合理的思想のカメラだと思います。
想像をたくましくすると、横幅が極限まで狭いのも対話相手に圧迫感を与えない配慮だと思います。
横画面の撮影には少し戸惑いますがグリップが左右90度以上旋回するので不自由はありません。
ただしはたから見ているとおかしな格好に見えることでしょうね。

露出もすべてメーターの指示どおりでしたが暗いところでもバッチリでした。

 一生触るチャンスもないと思っていましたが、幸いと云うか不幸にしてと云うかファインダーの2重像が不具合とか・・・
有名なプロ機材の修理を引き受けてくれるお店も、どうも二つ返事で修理を引き受けてはくれないようです。
流石に殿様カメラ、プロも腰が引けるようですね。

 そこで、「見たい、触りたい(コワサナイから)、羨ましい」と懇願して拝借する事に成功しました。

 オーナー曰く 「遊んでいいけど無理するな!」 ふふふ、やはり相当高価なお買い物だったようですね。


 壊さずに整備出来ればいいのだろうと内部をこっそり観察・・・(オーナーは怒るだろうなぁ)。
外のフレームは一体のダイキャスト製でネジはほとんどありません。
かろうじてごく小さなマイナスネジがファインダー部に1個見えるだけです。
 本体のフイルムマガジンを引き抜くとファインダーに近い所にネジ2本、反対側にEリング2個。
グリップは左右に90度以上旋回出来ます。


多分1,4mmのごく小のネジが1本。
これで露出計とファインダー部は全部覗く事が出来ます。


内部にはAの位置にマイナスネジが2個、Bの位置にEリングが2個。
これを外すと遮光やメカ部の保護をしていた1枚の遮蔽ボード(プラスチック)が外れます。



バッフルボードも1体(一部2枚合わせ)の深絞りのプレートでごく薄いプラスチック板です。
これでレンズ部のメカすべてとフイルム室を完全に仕切ってしまっているのはお見事と云うほかありません。



横倒しですが左側がファインダー部です。
A=ヘリコイド量をクランク状のレバーで写真では左側のファインダー部に伝達しています。
B=レバー式、2回巻上げフイルムチャージとシャッターのチャージ、そして右側に見えるレリーズ部に
  2重露出防止の指令をしています。
C=シャッターと絞り量をライトバリュー的にレンズ側でミキシングして真鍮の円盤(プ-リー)を介して
  糸でファインダー室にあるメーターに伝達しています。
D=シャッターレリーズで写真右手のグリップの動作を鏡胴に伝えています。


円盤プ-リーの上を左に走るのがメーターへのワイヤーです。
右ののこぎりと歯車がシャッターです。


巻上げ部だけを拡大したものです。
ラックギヤーを平たいプレートに刻んだり相当な技術が無いとこんなことはしませんね。
安っぽい加工ではすぐに駄目になりそうに見えますが、整然と動いています。


ヘリコイドの前後(A)を(B)のピンに伝えて回転運動に変えます。それを垂直に持ち上げ90度ほどクランクした
レバー(C)を介してファインダー部に持ち上げます。


(A)はゴッセンのメーターです。針は右手にあります。
左側の(C)は白く光っている距離計ミラー(固定)です。
右側の(C)は前の写真の(C)から持ち上がったクランクで、矢印の先端上部に白く見えるローラーベアリングで
後方にある楔形のプリズムを前後に移動させます。
ここが距離計の可動部ですが見事な工作です。
(D)は露光情報をメーターに伝達している糸です。
(Cが2個になってしまってスミマセン)

 ファインダー部を下ろすためにはこのワイヤーを切りはなさなければならないのですが・・・
ここでオーナーの「遊んでもいいけど壊すんではないよ」がよみがえりました。

 どうすればいいか?良く観察すると対物レンズの裏側のブライトフレーム用のハーフミラーと45度ハーフミラーの
前面以外は工夫すれば磨く事が出来ます。

 これだけで済む事を祈って汚れを落としたところ見違えるほどに良く見えるようになりました(自画自賛)。

 最後に、距離計の僅かなずれを修正してオーナーの許可をもらわない修理は完了しました。
それにしても何の意地悪も無い素直な設計、これだけ複雑精密な機構のネジを3本とEリングを2個外すことで
基本的に可能にしている技術力の完成度に感動しました。

 姑息な技術を誤魔化したり、見えにくくするなどと云う事は一切排除しています。
堂々と構造を見せてくれていますし、一目瞭然で構造はわかるのですが、この加工精度の模倣は
きっと誰も不可能なのだろうと思います。

 専門業者ですら恐れ多くて内部を開けないようですが、アマチュアの気楽さで開けて見て見事に肩透かしを喰らった
と言うか素晴らしい完璧な技術を堂々と見せ付けられました。

素晴らしい強度計算と設計技術、加工技術、材料強度に恐れ入りました。



試    写



縦画面用の配置ですので先ずは縦画面。


本日の気温37度近くで現像失敗もあるようです。かなり硬調な気がします。


猛暑の中で元気の良いお家族。
撮影者の心の迷いか?パパが中途半端になっちゃってごめんなさい。


早速のご挨拶は「シュワッ」・・・だったっけ。


どうも暑さに辟易しているのは老人だけのようです。


やはり縦画面の構成の場合は使い良いなぁ。


孫をなるべく日差しの強くないところへ誘導して昆虫探し。


END