ドッペルプロター(Doppel Protars:Convertible Protars)を搭載した4×5レンズシャッター、
フォーカルプレーンシャッタ付1眼レフ製作
(つまりシャッターもドッペル=ダブル・・・という変なカメラ)
2005-9
ボシュロム社がカールツァイスのライセンスで製作した組み合わせプロターのセットを所有していますが
なかなか使い勝手が悪くて出番がありません。
そこで焦点距離を固定して大型1眼レフに搭載したらどうかと・・・
すぐ思いつくのは実用的なグラフレックスですが、これも最終版のスーパーD辺りが都合がよさそうです。
ただしフォーカルプレーンシャッターの欠点というか泣き所でスローシャッターが構成できない。
しかもこのレンズは開放でもf値は7で、実働で使う絞り値はf:32とかf:45などですからシャッター速度はかなり遅くなるのです。
スーパーDの最低1/30ぐらいからの低速はタイムを使ってレンズにキャップをするしか方法は思いつきません。
そこで電子制御機能付きのコンパーの3番シャッター・ジャンクが転がっているのを思い出しました。
次はジャンクのスーパーDですがこれがまた入手困難、なぜならば今でも通用する1眼レフということで意外と流通しません。
そこで大阪のカメラ道楽の大先輩で神社の神主さん「Tさん」に相談して探していただくことにしました。
電話をしてみると「手札版のスーパーDが手元にありまっさかい、それをテンゴしはったら宜しいがな」
気合を入れてやりたいので最初からシノゴだったらいいのになぁとべそをかきましたが・・・
この神職さん、一度言い出したら決して引きません。
まるで「神のお告げでありますぞ!」であります、
ちゃんとお金を出しますので探してくださいといっても一切聞く耳をお持ちではありません。
早速御下賜頂いた手札版スーパーDは綺麗なものでありますが思い切ってナタをふるって見ることにします。
これがスーパーD(但し手札版・シノゴより小さい) シノゴのバック部分だけを取り出すインスタント証明カメラ
手札版の開口部サイズと左側のシノゴ枠 レンズ位置に糸を張ってレンズ中心線を想定します。
レンズ中心線から放射状に輪郭線を延長してシノゴフレームに無理が行かない位置までバックしてシノゴフレームを固定します。
35mmバックするとよいことが判りましたのでバックフレームを作ります。
ここはあとでレンズの都合で5mm前進しなければならない羽目に陥りました。
バックの延長がとりあえず完成、上のフードや蓋を取り払って、これまた頂き物のアングルファインダーを上にあてがってみました。
これがまた大失敗で中に1枚の平面鏡が入っているだけですから覗く画像はなんと天地左右皆ひっくり返ってしまうことを忘れていました。ワハハ
アイレベルファインダーを下さった浜松の
「Pさま」この格好がよかったので製作に走ったきっかけですが、僕のバカな早とちりで転地左右逆像の大間抜けでした。
部品を使わせていただいておりますし、アイレベルにも換装できますのでごめんなさい。
ならばこれでどうだ! ウエストレベルファインダーにも換装できればいいのでしょ?
真鍮とマホガニーの板でチョチョイのチョイ。マホガニー材はジャカルタ在住の友人「I氏」からのプレゼントでございます。
接眼レンズは200mm望遠レンズの対物レンズ(お友達のクラシックカメラ屋「Hさん」からのジャンクとしての頂き物)。
真鍮の骨にマホガニー張り、外装は塗装よりも山羊の皮でぐるり、この皮は大阪のカメラ仲間の「S氏」からのプレゼント。
色が気に入らないので黒いつや消しのエナメルスプレーを拭き掛けました。
どちらを向いてもほとんど頂き物で遊ばせていただけるところが本当に有難い事でございます。
写真ではアイレベルファインダーですがこれが大失敗!
左右天地逆像ですから普段はウエストレベルファインダーで使います。
なお製作途中ですが木製のカメラですからこうしてのこぎりで挽いたり、ノミで抉ったり・・・さすがにナタは使いませんでしたが。
フィルム面が30mm後退しましたのでピントグラス面も同じく30mm上昇し、画角もシノゴを縦横カバーする125mm角に変更します。
そういった荒っぽい工作が一通り終わると今度はれんぅボード周りの工作になります。
シャッターは国際規格で言うところの3番シャッターですが電子制御で32秒から1/200までの広範囲な速度設定が可能です。
電池は4.5Vの水銀電池を使うものでしたが既に廃盤となった電池ですのでボデーの隙間に単3電池を3個離して置くことにしました。
消費電流は20mA程度なのですが中でソレノイドを駆動しているようで突入電流を必要とします。
LR44ボタン電池でテストしましたがすぐにだめになってしまいました。アルカリ単三電池でしたら忘れるぐらい長く使えるでしょう。
撮影の為の一連の動作
先ずは手動の操作でミラーを下げないと画面は観測できません。
1眼レフですからピント合わせの時にはシャッターを開いてミラーでレンズを通過した画像を上に導きピントグラスで観察します。
画角とピント合わせが終了したら今度はレンズのプレフォーカス(開放)を一度閉じて絞り値を決めます(変えない場合もあります)
そのあとでシャッターチャージをしてシャッターボタンを押しますがベースになったスーパーDなどほとんどの大型1眼レフは
ミラーが上がると自動的にフォーカル幕が走って露光する形式です。
ところがこの機体にはフォーカルシャッタよりもレンズシャッターを主に使うように考えて設計していますので厄介な問題が発生します。
シャッターレバーを押して、巨大なミラーがパーンと跳ね上がる直前にレンズを一度完全に閉じます。
その直後にミラーは上昇して上昇点に達すると同時に今度は設定した時間の露光を行います。
これら全ての動作が約0.1〜0.2秒で確実に動作しないといけません。
幸いグラフレックススーパーDにはプレフォーカスレバーというのが機能として備えてあります。
これはピント合わせを明るく開放で観察し、シャッター操作を開始するとあらかじめ設定した絞りの値に切り替える装置で
専用の機能を持ったレンズを使うことになります。
蛇腹が65mmも前後しますので歯車軸の構造をしたスプライン継ぎ手という機構でレンズボードに信号を送っています。
今回はこの機能を利用してプレスフォーカスレバーを開放→閉じる操作に利用します。
人間がレリーズする最初の動きでシャッターを一度閉じるわけです。
ミラーはその直後バネで上に移動します。
緑の矢印がプレスフォーカスレバーを閉じる動作を示します。
真鍮パイプがぐるりとシャッターの周りを270度廻って中に通したステンレスワイヤーでレバーを引き上げます。
パイプを潰さずに90度折り曲げるのは物凄い技術が必要です。
今回の目的はワイヤーのルートをガイドするだけですので折り曲げのところはグラインダーで半分削り落として口を開きました。
ワイヤーの通しも楽ですし充分目的を達成できました。
黄色い筋が所々に見えますが写真説明のために所々真鍮パイプに黄色いテープを貼り付けて目印にしています。
赤い矢印はシャッターレリーズの動きを示します。
真上から押された動きはベルクランクに仕組まれた回転軸で90度角度を変えシャッターレバーを押します。
側壁に仕組んだレリーズワイヤーの写真です。
黄色い三角形は撮影認識の為のテープです(コーナー右上が回転軸)。
グラフレックスのミラー引き戻しレバーの動作からシャッターレリーズをします。
これはミラーが跳ね上がってシャッターが押されたところ。
レリーズの力が要るので軸にコイルスプリングをブースターとして付けています。
上部のフードはワンタッチで開きます。
フレネルレンズを縦横画面の変更に応じて入れ替えたり精密なピント合わせのルーペ作業が出来ます。
跳ね上げたフードの中に単3電池を3本隠して入れています。
一応完成したところです。
妙に古典的な写真機なのに電子制御やメカニカルリンケージが走り回って不思議なカメラに仕上がりました。
大昔の幻灯機のデザインに似ていると思います、上部に熱気を逃がす煙突があったのを思い出しました。
これはポラロイドです。左右下側に黒い影が見えますがこれはフォーカル幕が移動しないように画鋲で固定した影です。
レンズは幾つもの組み合わせ焦点距離の一番長焦点の10インチ f:7です
さらに長焦点の場合は前玉を外して1枚レンズにすればいいのですがf値がf:12とか、いよいよ暗くなるので敬遠しました。
最短撮影距離での試写です(1,7m)
人間が居ないので裏庭に咲いた黄色彼岸花、お彼岸の中日翌日の撮影になります(9/24日)。
ボデーが小さな手札版からのサイズアップなので下と上がすこし蹴られます。
(フォーカルプレーンシャッターメカニズムを完全廃止すればすこし改善されますが、我慢します)
横画面でしたら問題ありませんが被写体が無限大で、絞りが明るい状態でないと蹴られますね。
ドッペルプロターを気楽に使うための試みとしてはある意味成功かと思います。
それにしてもこんなへんてこレンズシャッター1眼レフの製造は前代未聞の暴挙だろうと思っています。
END
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