エルネマン(Ernemann)のSimplex Ernoflexを修復しました。
1925年ごろErnemann社が製造した一眼レフで、このモデルが特にSimplex・・・と命名された根拠は
それまでの蛇腹やレボルビングバックなどの手の掛かる機構を排除してコストダウンと軽量化に力を注いでいますが、
必要な機能を損なわず、簡易カメラとしてではなく合理性を追求したところに特色があると思います。
さて今回復元を依頼された機体はサイズとしてはこのシリーズ最小の「アトム版」のサイズです。
もうアトム版というサイズを御存知の方も少なくなっていますが名前の由来はICA社がc1909に発売した
”ATOM”というカメラに採用された6×4.5Cmの乾板サイズからきていると思われます。
この手の小型のものは残存数が非常に少ないようでクラシックカメラとして流通する場合も
かなり貴重品扱いになるようで、アトム版の1眼レフは私も初めて目の前において触ることが出来ました。
当時(c1926〜)もマスコット扱いの機材だったかと勝手に想像しています。
それとカールツアイス財団の発足がc1926年ですから統合されたその際に継承機種として
残らなかったのだろうとおもえば、はかない運命をたどったカメラのようです。
蛇足ですが、この年代にf:1.8という驚異的な明るさのレンズを開発しその名はErnostarといいます。
Ernostarを搭載した Ermanoxと名付けられた名機も誕生させています。
さてこのカメラのおよそのサイズは突起物を除いて幅87mm、高さ110mm、奥行80mm 重量670gr
そしてレンズはErnemann Anastigmat”ERNOPLAST”1:4,5 f=7.5cm
シャッターはフォーカルプレーンシャッターでアメリカのグラフレックス社のフォーカルプレーンシャッタ機構と良く似た
長尺の布幕に3mm、15mm、30mmと完全開口の4種類のスリットを持ち、巻き上げ後シャッターを切るごとに
順次撒く幅が広くなる形式ですが各段でのストップ、巻き上げ機構はグラフレックスとはまったく違います。
そのシャッタースピードは1/25〜1/1000まで、3個のテンションと4つのスリットの組み合わせで12段階に設定できます。
この手のフォーカルプレーン機構の最大欠陥はスローシャッターが機構的に難しい点です。
取っ手のハンドルは片方がワンタッチで外れます。こうしないとフードが立ち上がりませんから。
幕は風化していますので交換しないといけませんが全長で60cmほどで
グラフレックス(4×5等)の長さに比べると可愛いものです。
ちなみにグラフレックスの幕のことを下世話な言葉で「フンドシ」と呼びますが
これはとても可愛らしいので「オムツ」と呼ぶのでしょうか?
古い幕の開口部のエッジは大変堅牢にカシメて造ってありますので取り外しても再利用できません。
発泡酒の空き缶を利用してエッジ金具を作りますがはさみで加工出来ますので優秀な材料ですね。
それに・・・
目的の為にはコンビニで1缶買わないといけないし、飲まないと使えないし・・・
幕を全開にしてミラーの後ろ側を見た所です。
ミラーが降りている時はレンズ側の光線は完全にミラー自体で遮光します。
完成した新しい幕です。
これはシャッター機構です。
シンプルで非常に合理的、且つ堅牢にに造られています。
グラフレックス社の機構とはまったく違います。
もともと大して不具合もなかったので洗浄、給油で快調になりました。
今回、ガラス乾板はないし、シートフィルムを切って挿入するのも大変なのでロールフィルムを使ってみます。
ロールホルダーにはブロニカETR(ダッタカナ?)ハーフ版のロールホルダーを加工して使用します。
ここで問題が発生します。
ガラス乾板の感光面はボデー裏側の1mmほどの位置にあるのです。
ところがロールホルダーですと機構上の問題でどうしてもフィルム位置が5mmほど後退してしまいます。
先ず レンズをバックさせる方法は1眼レフのミラーとの干渉で2mmも下がると干渉します。
このレンズは前後2群で前群が凹レンズ、後方が凸レンズの構成です。
最前面に絞り調整が出ていてレンズの前後移動は不可能。
このような貴重な寫眞機の原型を改造することは自分の気持ちとしても許されませんので
後玉を緩めるだけ緩めて光学系の光路構成は狂わせてでもとりあえず写り具合を確かめたい。
そんな小細工で最初は最大1m以内程度までしかピントが合わなかったものを何とか1.8mまで伸ばすことに成功しました。
これですと人物撮影に不自由はないと見切りを付けてピントグラスを5mmほど嵩上げしました
最初が5mmほど落とし込んであったので擦りガラスの下に5mmのカイモノを入れてグラスを固定します。
丁度上面の面位置にピントグラスが来ました。
復元するには擦りガラスの下の下駄を取り払えば完了します。
ピント位置調整のためにフードを外してわかりましたが
赤い矢印が指しているハトメ穴、以前から小さな一眼レフのフードについているので
ナンだろうといぶかしく思っていましたが、分解する時に必要な穴だと始めて気がつきました。
ご覧ください、フードの蓋とネジでつなぎ合わせて、カバーの開閉に連動してフードが立ち上がるわけですが
その止めネジを締めたり外したりする穴なんですね、判ってしまえばな〜〜んだということです。
ちなみに大きい1眼レフですと小さなドライバーがフードの開口部にすっぽり入ってしまいますから必要なかったわけです。
判ってしまえば「ナーンダ、ソウダッタノカァ」な話ではありますが物事すべてに疑問を持つことは大切ですね。
左上と中央、ガラス乾板ホルダーと右はパックフィルムホルダー
左下が今回製作したブロニカ645改造ホルダー、その右がイエローフィルター
このイエローフィルターは少しグリーンも入っている感じで、クリップで挟む構造です。
中央右側はバックに付けるピントグラスです。
コンタックスAXと並んで記念写真。
ねっ、小さいでしょ?軽いでしょ(670gr)
コンタックスAXに標準レンズ付けて1.5kg弱のようですから重量は半分以下!
それでいて画面サイズは6×4.5のれっきとした中判なのであります。
ところでもう一齣手前の写真などで見えるレンズキャップについてお話します。
幕の幅は一列に縦に並んでいますので巻き上げすぎた場合はどうしましょう。
巻上げが足りない時にはミラーが塞いでいますのでそのまま巻き上げればいいのですが
巻き上げすぎて、このシャッターチャンスではもっと遅い速度にしたい!!
こんな時にはあわてずにレンズキャップを被せてシャッターを切って幕を通過させればいいわけです。
ですから、現在の埃除けでのレンズキャップとはまったく違う重要な機能を受け持っています。
実際覗いてみるとピント面から8cmほどのところで、ルーペもないので屋外では全く何にも見えないというのが正直な話です。
そこで手元にあった画用紙で差し込みフードを作ってみました。
ピント面を拡大するとかの機能は一切ございません、単に私の老眼で精一杯近づける距離です。
取り外してしまうと完全に平たい板に折れますし、なくしてもすぐに造れます。本当は拡大ルーペを落とし込みたいところです。
赤い色は偶々手元にあった画用紙が赤かっただけです、意味はありません。
試写1回目
ホルダーの一部から光線漏れがありましたがとりあえず試写の結果。
ロールホルダーはブロニカ本体のギヤ駆動巻上げ機構なのですが其処はないので手巻きにします。
従ってカウンターも動作しません。
スタート位置まで来たフィルムを装填して手巻きダイヤルを7回半〜8回巻きますと1枚目になります。
あとは一齣ごとに1回転で巻いていくと14駒撮影できます。
何枚分巻いたかは記憶するかメモしないといけませんが
静かにまいているとフィルムが終わった時には僅かにクリックを感じますので耳を当てて聴きましょう。
裏庭に捨てられた十二支の龍の置物、常滑の土で造ったものでしょうか?ツルツルしています。1.8m位離れて。
龍の子供発見!!
最短の50cmほど(怪我の功名、近接には強くなりました)のトカゲの子供、体長6cmぐらいでしょうか、中央より右下に見えますか?
部分拡大。
右下から盛大な光線漏れがありますがこれはカメラ本体ではなくロールホルダーの問題です。1.5m
これも光線漏れですので差し引いてご覧頂ければ幸いです。最短50cmぐらい。
この映像を見ていると古いツァイスのプロターレンズととなんとなく味わいが似ていると思うのです。
所謂古典レンズの味(良くも悪くも)とでも言うのでしょうか?
光線漏れあり。
END
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